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楽天市場が全店舗共通で送料無料バー3,980円へ。出店者側で必要となる対策とは?

2019.09.04

2019年7月31日~8月3日に開催されたRakuten Optimism 2019にて「全店舗共通で送料無料ラインを3,980円(税込み)以上にすることが発表されました。今回の記事では、この楽天の発表に関して、意図や対策を記載していきたいと思います。

 

 

全店舗送料無料ライン統一する楽天側の意図とは

 楽天市場が共通の送料無料ラインの導入に至った理由の1つとして、送料がわかりにくいというユーザからの声があります。これは楽天市場を何回か利用したことがある人ならばわかると思いますが、楽天市場は店舗ごとに送料の設定ができるため、送料無料になる金額や商品がそもそもバラバラです。

 

従って、普通に買い物をしていて、最後の決済の時に送料分が課金されて合計金額が上がるようなことがあります。もちろん、買い物かご付近に送料が別の商品には送料別と表記されていますので、事前に合計金額が変わることは分かるのですが、正直、多くのユーザがこの表記に目がいっておらず、後から送料別であると気が付くのです。

 

また、仮に送料の表記に目が行っていたとしても、送料がかかるなら買わなくていいかって思うユーザも多いはず。現に、楽天が実施した調査では、「送料が原因で購入を辞めたことがある」と答えたユーザ割合は約70%であったと発表しております。要するに、今回、楽天市場が全店舗共通の送料無料ラインを導入した意図としては、ユーザの利便性を高めて、楽天市場のGMS(流通額)を引き上げていくことにあります。

 

 

 

送料無料で購入されている商品はどのくらいあるのか

現状の楽天市場において、送料無料で購入されている商品は約80%となります。ほぼ送料無料で購買されているのです。この結果から、ユーザ側の行動としては、何とかして送料無料で購入できる商品はないか探す、送料無料になるまで購入金額の総額を引き上げてお買い物をする、などの行動が考えられます。

 

正直、送料無料になるのであれば、別にほしくないけど、買っておこうなんて考えて購入しているユーザも多いはずです。もちろん、もともと送料無料である商品も多く存在します。この様な状況から、ECでは送料無料という設定がユーザから商品を選んでもらうために非常に重要なポイントであることが改めて理解できます。

 

 

 

なぜ3,980円に設定したのか

楽天はなぜ送料無料のバーを3,980円で設定したのでしょうか?楽天市場から発表されている公式理由によると、楽天市場での実証実験において、ユーザの購買金額を押し上げる効果が十分に得られた価格が3,980円であったためとしております。これに関しては詳しい実証実験の内容は公表されていないので、モニタリングしたユーザの属性や嗜好性、購入されているジャンルなどは分かりません。従って、本当に3,980円が最大の効果を出すことができる価格であるかどうかも定かではありません。

 

ただ、楽天市場という最大手ECモールがそのように言うのであれば、それに従うしかなく、それがプラットフォーマーの強みということになります。ただ、ユーザとして3,980円以上がすべて送料無料であるといわれると、何となく買い物しやすい感じがあるのも確かです。全く根拠はないですが、4,980円と言われると要するに5,000円なので、少し高いのかなと感じてしまいます。

 

一方で2,980円だと安すぎるため、出店企業側へ送料負担が重くのしかかってしまいます。3,980円はある意味絶妙なラインなのかもしれません。この3,980円ラインの設定が成功か失敗かは、導入後の結果を確認しない限り分かりません。今回の評価に関しては、結果が出てからにします。

 

 

 

楽天市場の出店店舗側がするべき対策とは

全店舗共通3,980円の話が出た時点で、出店店舗としては対策を行う必要があります。まず、現在の送料無料バーが3,980円以下の金額で設定されている店舗にとっては、特に関係なく今まで通りの運営でOKです。問題は3,980円以上の金額で送料無料バーを設定している出店者となります。仮に4,000円で設定しているのであれば、差額は20円ですので、ほぼ変化はないと考えられます。

 

しかし、5,000円や6,000円、もしくはそれ以上で設定している店舗にとっては大問題です。仮に今まで5,000円以上の購入で送料無料としていた店舗にとって、送料無料バーが3,980円となると、1,020円分の金額幅が発生し、この幅の中に存在していた注文で送料別であったものが、送料無料で配送しなければならなくなり、ユーザから送料費用を払ってもらえなくなります。この追加費用分は出店者のPLに影響し利益を圧迫することになります。そこでまずは、どの程度利益が圧迫されるのかをシミュレーションすることが大切となります。どのようにシミュレーションするかを以下に記載します。

 

■ステップ1

2018年8月1日~2019年7月31日までの全注文データの中から、3,980円~現状店舗の送料無料バーの幅の金額にて購入しているユーザの注文を抽出します。過去の注文データが3ヶ月分しか保存していない店舗さんは過去3か月分で検証しましょう。

■ステップ2

既存送料無料バーと3,980円の間に存在する注文に対して、発生した送料を計算します。また、1件当たりの平均送料も割り出しておきます。

■ステップ3

該当する注文に対して、昨年からの売上の伸び率を掛け合わせ、共通送料無料バーが施行された結果、送料無料となる予測注文件数を割り出します。

■ステップ4

1件当たりの平均送料額を件数に掛け合わせ予測追加発生費用を割り出します。

■ステップ5

最後に現状もしくは予測される来年の売上に対する追加発生費用の割合を出せば試算が完了します。

 

弊社でも何社かの予測試算を出しておりますが、現在の送料無料バーが5,000円の楽天出店企業様で売上の約1.5%~2.0%の追加費用が発生しておりました。取り扱う商品や配送形態、配送費の内容によって、すべての出店店舗で該当するわけではありませんが、現状の試算として予測がされております。さらに言えば、5,000円以上の金額で送料無料バーを設定している出店店舗にとっては、より大きな費用負担となる可能性も十分にあります。是非、まだ試算をされていない企業様は試算してみてください。そして、どの程度の負担額になるのか、イメージを早めに持っておいたほうが良いかと思います。

 

 

 

売上は上がるのか?

楽天市場で全店舗共有3,980円以上の購入で送料無料が施行された場合、果たして店舗の売上は上がるのか。ここが一番重要なポイントです。楽天側としては100%上がる、少なくとも事前のトライアルではGMSがアップするという結果が出ていると発表しております。しかし、1店舗1店舗をみると劇的に上がるお店もあれば、ほとんど変わらないお店もあり、売上が減少するお店も出てくるはずです。

 

なぜなら、今まで送料無料バーの設定金額が他店よりも低く、その結果、他店と差別化を図れており、ユーザから選ばれていたお店も少なからずあるはずです。しかし、今後は送料無料バーや送料無料商品での差別化は非常に難しくなります。従って、今まで以上にポイント・クーポン・セールなどの施策に力を入れていき、ユーザに選んでもらうようにして貰わなければならないということです。

 

 

 

今後の日本のECについて

今回の楽天市場の決定は日本のEC業界に与える影響は非常に大きいモノがあると感じます。楽天市場は少なくとも日本のEC文化を創ってきたモールであり、楽天市場から生まれた仕組みや、EC運営のやり方はEC業界のノウハウとなっています。

 

そのような力のあるモールが3,980円という送料無料バーを発表し、ユーザがこの文化に慣れてしまった時、楽天市場以外のECサイトでも3,980円以上で送料無料にするようなことが慣習として広まってしまうのではないかと容易に想像がつきます。そうなると、今回の楽天市場からの発表は、楽天市場内だけの話だけではなく、日本のEC業界全体にインパクトを及ぼす話になると感じます。

 

そして、間違いなく3,980円以上送料無料が当たり前となる日本のEC文化ができあがるのではないかと思います。楽天はその様な未来を必ず見据えているはずです。そのような未来のEC業界の展望をイメージしながら、日々のEC運営を進めていくことが大切です。本日の記事は以上となります。最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

 

著者 氏原亮介

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